小5で発症し、12年間戦ってきた「群発頭痛」について

群発頭痛」という病気をご存知だろうか。“頭痛”とついているからと言って、「なんだ、ただの頭痛でしょ、私も片頭痛持ちでね……」なんて、この病気を甘く見ちゃあいけない。

別名「自殺頭痛」と称されるほど強い痛みがあり、心筋梗塞、尿路結石と並ぶ三大痛の一つとされている。「出産なんか比ではない」とも言われている。

このほど、ハリー・ポッターのダニエル・ラドクリフが持病であることを告白して話題になったが、健常者の気持ちとしては、自分でなってみないと痛みのレベルがどうも分からないし、それでも頭痛は頭痛だし、大騒ぎするレベルではない――といった感じではないだろうか。

タイトルにも記載したが、実は私も群発頭痛の疾患者の1人だ。普段は普通の生活を送れるが、数ヶ月おきの周期で群発頭痛の発作が起きる。症状はだいたいこんな感じだ。

悲劇は突然やってくる。

なんだか今日は目の調子がおかしいなと思っていると、視界に影ができ始め、どんどん見えない部分が増えていく。
片目の周りがこわばってくるのと同時に、その周りの顔面が強ばってくる。片目の奥が“ギリギリ”と痛み出す。どんどん痛みが増して行く。
次第に痛みを感じるという領域を超えて、目を誰かに握りつぶされているかのような、えぐられているかのような、こらえ切れない激痛となる。
光、臭い、音、風といったあらゆる刺激が痛みを増す要素になるので、真っ暗闇の隔離された誰もいない部屋に引きこもる。
「ぐがあああ!!!!」と、絞りだすような、かつ尋常ではない大きさの叫び声をあげながら、その痛みに1〜2時間もの間悶え苦しむ。目は血走り、痛すぎてなのか涙が流れっぱなしになり、鼻水、よだれ、嗚咽も止まらない。寝転がって「安静」なんてこともできない。とにかく痛すぎて床を転げまわり、頭を壁に打ち付けてみたり、床をドンドン叩いて、生死をかけて痛みと格闘する。
市販の頭痛薬は全く効かないので、ただその痛みが治まることをひたすら待ち、痛みに耐えぬくことしかできないのだ。
やがて失神し、ふと気がつくと発作から6時間ほど経過。そしてまた数時間後には目の調子がまたおかしくなり、悲劇を繰り返す。

発作時、周りに居た人間はたいてい、私が異常に取り乱して苦しむ様子に大変動揺する。「ドン引き」という言葉がこれほどしっくりする状況は無いんじゃないかと思う。これが私にとっては惨めで仕方がない。「見ないでくれ!お願いだから見ないでくれ!」と叫んだこともある。

「救急車呼ぶ?!」「大丈夫?!」と声を掛けてくれる人もいる。大変有難いのだが、私としてはそれどころではないくらい痛くて冷静な判断ができない。1〜2時間で収束してしまう痛みなので、救急車を呼ぶほどの大事なのか分からないのだ。しかも構われると余計に痛みが増してくる。だから、群発頭痛に無知な誰かにどうこうされるよりも、暗闇にひとりで居て、痛みに耐えるほうがまだマシなのだ。

成人男性に多い病気とされているが、私(♀)は小学5年生の時に発症した。
当時は「群発頭痛」という言葉があまり知られておらず、ちゃんと診断できる医師が少なかったために、“ただの頭痛”として診断されていた。発作の度に全く効かない頭痛薬を服用し、「ああやっぱり効かない」と、毎度よく分からない納得をしていた。私はどうしようもない難病にかかったような気がして、大変路頭に迷っていた。

発作が起きた日には何もできなくなるのが辛かった。試験前日に発作が起きて全然勉強が出来なかった事もあった。バイト中に発作が起きて、その日のすべての仕事を放棄するなんてこともよくあった。その度に「この病気のせいで社会信用を無くしてしまうのでは」と、とても悔やんだ。「なんだか目がおかしい」と思った日は、またあの発作が起きるのではと怖くてたまらなくなかった。

三叉神経痛と誤診(?)される

高校時代、友人が保健室へ行く際の付き添いついでに、保健室の先生にこの頭痛の相談をしてみた。すると血相を変えて「脳の病気かもしれない。1度専門の病院で見てもらわないといけない」と言って、神経内科で有名な病院を紹介してくれた。

長年悩んでいた頭痛の特効薬を得られるかも?と淡い期待を持ちつつ、早速その病院で問診や触診、血液検査をしてみると、「三叉神経痛、もしくは脳腫瘍かてんかんの可能性がある」と診断された。だが、はっきりとは分からないので「国立医療センター」というとても大きな病院(橋本龍太郎元首相が入院していた)で、脳波やMRIといった脳の精密検査を受けることに。

「やっぱり“ただの頭痛”ではなかったのか」となぜかちょっと安堵してしまったが、だんだんと「これは只事ではない」と焦りを感じ始める。今考えてみれば、そりゃそうだ、“ただの頭痛”ではないんだから(苦笑)。「大きな手術を受けなければならないのでは?」「手術費はどれくらいかかるのだろうか……」「病気とわかったところで治るのか?」「それとも……死ぬのか?」。幼い私にはとてつもない心労だった。

検査の結果は「異常なし」。張り詰めた気持ちが途切れて、ちょっとだけズッコケた。ただ、三叉神経の脇にある血管が太く、しかも神経に接近しており、この血管が拡張し神経を刺激した時に痛みが発症している可能性があることが分かった。それを担当医に報告すると、この頭痛に関して言えば「三叉神経痛の可能性が高い」ということで、三叉神経痛用の「テグレトール」という薬を頓服で服用することになった。

つまり三叉神経痛に近いが、三叉神経痛とも言い切れないので、とりあえず三叉神経痛の薬でまず効くかどうか試してみて、といったところ。自分は難病なんかではなく、薬で抑えられる程度のものだったのか、とホッとした。できればもっと前からちゃんとした診療を受けたかったと思ったほどだ。だが、発作が起きた時に薬が効くかどうか試す、ということは「薬が効かない可能性もある」ということを視野に入れなければならなかった。

結果、この頭痛にテグレトールは効かなかった。量を増やしても効かなかった。ダメだった。また振り出しに戻った。頭痛と比でないので気にしていなかったのだが、そういえば時折(特に冬)顔周りがキーンと突発的に痛む症状があった。これが三叉神経痛であることが分かった。じゃあこの頭痛は一体何なんだ!!!と悶々とした。

ネットで同士を見つけ、「群発頭痛」を知る

もう医者は信用ならないと思った。どの医者も頭痛を治してくれなかった。でもどうにか治したかった。せめて痛みを和らげられれば……と死に物狂いで、暇さえあれば「頭痛」「目の奥が痛い」「えぐられるような痛み」といったキーワードで検索し、ネットで情報収集していた。分かったのは以下のことだ。

  • 疾患しているのは私だけではなく、ほかにも居ること
  • その人々(同士)が、全く同じ悩みを抱えていること
  • この頭痛は、どうやらあまり世間に知られていない「群発頭痛」という病であること
  • 難病指定はまだされていないため、サポートを受けられないこと
  • 群発頭痛」以外の病気として誤診される人が多いこと
  • 群発頭痛」は研究が進んでおらず、その原因と完治させる方法がまだ分かっていないこと
  • イミグラン」という薬を使えば痛みが緩和すること
  • イミグラン」には錠剤、点鼻、注射の3つの投与方法があること

治らない病なのか……とかなり落胆したが、緩和だけでもできるなら、今よりずっと良いじゃないかと心を持ち直した。

情報が揃ったところで、あとは病院選びだが、しかしどこの病院がいいのかよく分からない。しかも親にこれ以上自分の病気のことで迷惑を掛けられない。心配も掛けられない。前の診療は自分から行きたいと言っておいて、かなりのお金をかけさせておいて、「失敗(誤診)」だった訳だから。ちゃんとした専門医の居る病院で、自分のお金で治療を受けるということがいつしか自分のミッションとなっていた。

やっと手に入れた「イミグラン」。でも……

大学卒業前にやっと三越厚生事業団の「三越診療所」に良い医師がいるらしいということが分かり、また、自分の病気と向きあって戦う決意に達した。正直発作が来ても、その場の痛みを我慢すれば、数ヶ月は普通に過ごせるし、治療費もバカにならないだろうし、平日やらなければならないことを退けて病院に行くなんてできない、なんて思っていたのだが。社会人生活が近づくにつれ、「業務中に発作が起きて仕事放棄を繰り返し、クビになったらどうしよう」とか、「そんな病気持ってる奴は働くな」とか、「(ちゃんと働けると思っていたのに)詐欺だ」なんて言われたら……と考えたら、病院に行って少しでも病状を良くするほか選択肢がなかったのだ。

三越診療所で問診、触診、血液検査を受け、やはり「群発頭痛」と診断される。錠剤と点鼻のイミグランを渡され、どちらが効くかを発作の度に試してみる事になった。やっと手に入れたイミグラン。これでもう仕事中に発作が起きても心配ない、と思っていたのだが、人生そううまくはいかなかった。

去年は3度発作があったか。なんか目がおかしいなあといつもの予兆が来たので、点鼻を試してみる。薬って投与すれば治るものだと思っていたのに、全然良くならない。発作前の普通の状態に戻らない。薬のお陰か、耐えられないでのたうち回るほどの激痛はないが、やっぱり目にはえぐられるようなひどい痛みが走る。だが薬のせいで頭がグワングワンと揺れ、目が回るような感覚になる。とても仕事はしていられないので結局早退するハメに。次の日も休むことになってしまった。錠剤の時もそうだった。最終手段の自己注射を検討しなければならなくなった。だがその費用は高い。ああ、どうしようか……。

やっぱり自分はこの病から逃れられないんだなと悟った。会社にお世話になってる限り迷惑をかけ続ける。もともと体も強い方ではない。低体温で貧血気味ですぐに風邪をひくし胃腸も弱い。しかも三叉神経痛も持っているのに、群発頭痛までも疾患しているんじゃあ、もう人間として欠陥商品でしかない。そんな自分が情けなくてたまらない。咎めずにはいられない。「詐欺だ」と言われても仕方がない。

てんかん発作による事故のニュースが私を苦しめる

2012年4月12日、京都・祇園で、暴走した軽ワゴン車が歩行者を次々とはねる事故が起きた。運転手を含む8人が死亡。事故の原因は運転手のてんかん発作だった。会社に病気を申告せずに車の運転をしており、たまたま発作が起きてしまい、ほとんど意識不明で運転し、事故を起こしてしまったらしい。
事故はたちまちメディアで取り沙汰され、てんかんを持つ人は運転をすべきでないとか、先に申告すべきだとか、先に分かってたら採用しないし、といった意見が国民から多く出た。私の職場の周りの人々も同様の意見を言っていた。

群発頭痛持ちとしては、この運転手に同情せざるを得なかった。病気を会社に申告しない、できない気持ちが痛いほど分かる。疾患者だからといって仕事をもらえなかったり、クビになるのが怖いのだ。発作はいつ来るか自分で分からないし、治ったと思ったら来ることだってある。その点では健常者と一緒だと思ってもいいと自負してしまいそうになる。自分だって普通に生活して、働きたい……。運転手もそう思っていたに違いない。運転手や、運転手の家族、雇用者を責める人の声が、まるで私の事を責めているように聞こえてくる。ああきっと、私が発作で仕事を放棄した日にも同じ事を言われているんだろうなぁ、と。

私は未だこの負の感情から抜けだせられずに居る。私はやっぱり邪魔者なのだろうか?社会から淘汰されるべき存在なのだろうか?

群発頭痛を治す (健康ライブラリー)

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てんかん発作こうすればだいじょうぶ―発作と介助 (「てんかん」入門シリーズ 1)

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